滞納・未払い・差し押さえ

仕事上の取引や融資が止まる!?社会保険料滞納の差し押さえの避け方

社会保険料の事業者負担は約16%と、事業主にとって大きな負担です。

しかし負担が大きいからと社会保険料を滞納してしまうと滞納処分を受け、最終的に財産を差し押さえられてしまう可能性があります。

また滞納を放置しておくと、取引先や融資元の金融機関にも滞納の事実を知られてしまい、最悪の場合、取引や融資が止められてしまいます。

そのため、社会保険料の納付が厳しい場合には早めに対処することが重要です。

ここでは、社会保険料の滞納から差し押さえまでの流れ、支払いが難しい場合に利用できる制度などを紹介します。

事業者は加入必須?社会保険料の加入条件や詳細

社会保険とは、怪我や病気、災害、失業等で生活に困ったとき、最低限の生活が維持できるように保障してくれる保険制度のことです。

社会保険は基本的に大半の事業所が加入する義務があり、以下の5つの保険の総称になります。

  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金保険
  • 雇用保険
  • 労災保険(労働災害補償保険)

この内、健康保険、介護保険、厚生年金保険は年金事務所、雇用保険と労災保険は事業所のある地域管轄の労働局と保険料の納付先が分かれています。

このため、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つを「狭義の社会保険」、雇用保険・労災保険を「労働保険」と呼ぶこともありますが、この記事では上記5つをまとめて社会保険として説明します。

それぞれの保険について、内容や加入条件、事業者の負担率などを見ていきましょう。

健康保険

健康保険とは被保険者(加入者)、および扶養家族が怪我や病気をして病院に掛かった際、医療費の一部が補助され、安く病院にかかることができる保険制度です。

また、加入しておくと出産一時金や育児休暇、怪我などによる長期休業、死亡などによる働くことが困難である場合、保険給付を受けることも出来ます。

健康保険は法人(株式会社、有限会社、一般社団法人等)、また一部のサービス業を除き常時5人以上の従業員がいる個人事業主は、加入が義務付けられています。

加入対象となるのは、フルタイムもしくはそれに準じた働き方をし、かつ週30時間以上勤務する従業員です。

保険料は事業者と被保険者が折半で負担しますが、組合健保、協会けんぽ、各種の共済組合等、加入している健康保険の種類やお住まいの地域等によって負担割合は変わってきます。

平成30年度、協会けんぽに加入している東京勤務の人を例に考えると、事業者と被保険者はそれぞれ被保険者の給与の4.95%の負担になります。

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介護保険

介護保険とは老齢等で介護が必要になった際、家族の負担を減らしつつ、住み慣れた地域や家で暮らせるよう介護費用を一部負担してくれる保険制度です。

保険料を払っていれば、65歳以上で介護を受けるようになった際、市区町村に要介護認定を申請して調査の上、「要支援1~2」「要介護1~5」と認定されれば保険料を受け取ることが出来ます。

介護保険は法人(株式会社、有限会社、一般社団法人等)、また一部のサービス業を除き常時5人以上の従業員がいる個人事業主は、加入が義務付けられています。

加入対象となるのは前述の健康保険に加入している人のうち、40歳以上の従業員が対象になります。

保険料は事業者と被保険者が折半で負担し、事業者と被保険者はそれぞれ被保険者の給与の0.785%の負担になります。

厚生年金保険

厚生年金保険とは老齢年金、障害年金、遺族年金で知られるように老齢、怪我や病気、死亡等で働けなくなった際、定額の年金が給付される保険制度です。

厚生年金に加入している方は、支給資格を満たしていれば各基礎年金に上乗せして厚生年金が支給されます。

厚生年金保険は、健康保険、介護保険同様に法人、また一部のサービス業を除き常時5人以上の従業員がいる個人事業主は、加入が義務付けられています。

加入対象となるのは、70歳未満でフルタイムもしくはそれに準じた働き方をし、かつ週30時間以上勤務する従業員です。

保険料は事業者と被保険者が折半で負担します。

厚生年金の保険料率は、平成29年9月以降より給与の18.3%で固定されたので、事業者と被保険者はそれぞれ被保険者の給与の9.15%の負担になります。

雇用保険

雇用保険は、失業等で仕事がなくなってしまったときに生活の安定や再就職促進を図るため失業給付などが支給される保険制度のことです。

他にも、資格取得等で必要な入学金や授業料を負担してくれる教育訓練給付金、育児や介護などで休業しなければならない場合に受け取れる育児休業給付金や介護休業給付金、定年後の再雇用等で賃金が減った場合などに受け取れる高年齢雇用継続給付があります。

雇用保険は、従業員を1人以上雇っていて、かつ雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇っている事業主は加入を義務付けられています。

加入対象となるのは、週の所定労働時間が20時間以上で、継続して31日以上雇用される見込みのある従業員です。

保険料は農林水産・酒造製造事業、建設事業以外の一般の事業に従事している場合、事業者は0.6%、被保険者は0.3%の負担になります。

労災保険(労働災害補償保険)

労災保険とは、仕事中や通勤中に事故・災害にあって怪我をしたり、仕事が原因で病気になったり、障害を負ったり、死亡した際に補償をしてくれる保険制度です。

健康保険も怪我や病気の保障をしてくれる保険ですが、違いは仕事や通勤によって怪我をしたり病気になったときは労災保険、それ以外の仕事に関係ない病気や怪我は健康保険が適用されます。

労災保険は従業員が1人以上いる事業主は加入を義務付けられており、加入している事業所で働く従業員全員に適用されます。

保険料は他4つの保険と違い、事業者が全額負担となります。

事業者負担の保険料率は業種によって細かく設定され、また過去3年の災害発生状況と各業種にもたらす影響を考慮して原則3年ごとに改定されます。

例えば平成30年度の事務系業種の事業者負担は0.3%となります。

早めの対処が重要!社会保険料滞納から差し押さえまでの流れ

ここで東京勤務、事務系業種の方を例に、社会保険料の事業者と従業員それぞれの負担割合を以下の表にまとめてみました。

社会保険の種類 保険率(事業主負担) 保険率(従業員負担)
健康保険 4.950% 4.950%
介護保険 0.785% 0.785%
厚生年金保険 9.150% 9.150%
雇用保険 0.600% 0.300%
労災保険 0.300%
保険率合計 15.785% 15.185%

こうしてみると、社会保険料の事業者負担は給与のうち約16%となかなか大きな負担です。

しかし負担が大きいからといって納付を後回しにしてしまうと、取立てを受けてしまうことにもなり、最終的に財産を差し押さえられてしまう可能性があります。

とはいえ、滞納したからといってすぐに取り立てとはなりません。

滞納してから財産差し押さえまでの流れを、以下より順を追って詳しく説明します。

第1段階:督促状・電話・訪問による督促

社会保険料を支払わないまま納付期限を過ぎると、約1週間後に滞納している社会保険料によって年金事務所か労働局、もしくはその両方から「督促状」が届きます。

さらに督促状が届くのと同時期かそれ以降に、電話や訪問によって保険料納付に向けた指導が入ります。

また、督促状の納付期限までに保険料を支払わなかった場合、「延滞金」が発生してしまいます。

延滞金は、本来の納付期日から完納するまでの日数に応じて加算され、以下の式で計算されます。

「延滞金=納付すべき保険料(1,000円未満切捨て)×延滞金の割合×滞納日数÷365日」

延滞金の割合については年度によって、納付期限の翌日から3ヶ月(労働保険は2ヶ月)以内かそれ以降かで変わりますが基本年14.6%の利率となっています。

ただし延滞金は、滞納分全額が期限内に一括で払えなくても、一部納付が認められればいくらか減らせる可能性もあります。

特に資金繰りが厳しく保険料の納付が出来ていない場合、延滞金という余分なお金を払わなければいけないのは苦しいと思います。

この段階で督促状に記載されている納付期限までに納付が出来ないようであれば、早めに年金事務所か管轄の労働局・労働基準監督署に納付の相談をしましょう。

第2段階:「財務調査」が行なわれる

督促状や電話・訪問での督促を行なっても相談もなく、保険料の納付意志が見られない場合、「財務調査」が行なわれます。

担当職員が会社や事業者の自宅を訪問し、財産について聞き取り調査を行なうのです。

主な調査対象は、現金、預金残高、売掛金、不動産等の財産全般です。

なお、聞き取りだからといって調査や後述の捜査の際、財産の虚偽や隠蔽をしようとすると厳しい処罰の対象となります。

もし財務調査を受けることになったら、調査員の質問には正直に答えましょう。

第3段階:「強制捜査」が行なわれる

財産調査によって財産を確認できなかった場合、「強制捜査」が行なわれます。

財務調査は任意でしたが、強制捜査となるとその名の通り「強制」となるので、事業者は拒否をすることが出来ません。

強制捜査は会社や事業者の自宅のみならず、関係者の自宅、取引先の企業や金融機関等も捜査対象となり、金庫や棚等はもちろん隅々まで徹底的に調査されます。

この段階まで行ってしまうと差し押さえまでは秒読み段階といえるでしょう。

出来れば、強制捜査が入る前に対象事務所に相談に行きましょう。

最終段階:財産の差し押さえ処分の実施

財務調査、強制捜査が終われば、「差し押さえ」です。

差し押さえ対象となるものは調査や捜査の対象になった物で、現金や預金残高等の現金を優先的に差し押さえられ、不動産や車等は公売にかけられ現金化してから保険料として収納されます。

しかしこの段階でもいきなり差し押さえが行なわれるわけではなく、執行前に予告通知が届きます。

この段階でもギリギリ間に合うかもしれませんので、差し押さえの予告通知が届いたら急いで該当事務所に相談しましょう。

かなりダメ元になりますが、状況次第で差し押さえが一旦ストップされる可能性があります。

このように差し押さえはいくつかの段階を経て行なわれ、段階が進むほど対処が難しくなるので早めの対処が重要になってきます。

納付忘れ、もしくは納付が厳しいことが分かった時点ですぐ該当の事務所に保険料を納付するか相談をしましょう。

融資や取引が止まる!?社会保険料を滞納した場合のリスク

社会保険料を滞納し続けるリスクは、延滞金や差し押さえ以外にもあります。

まず、強制捜査や差し押さえまで行なわれた際、銀行の預金や売掛金が差し押さえ対象になってしまうと、取引先の金融機関や企業に社会保険の滞納を知られてしまいます。

それによって事業所の信用が失墜し、以降の取引や融資の停止、融資の回収などが行なわれ、ますます資金繰りが厳しくなってしまう可能性があります。

また、調査や捜査が入れば従業員も社会保険料滞納の事実を知ることとなります。

そうなるといざという時支払われるはずの保険が支払われない可能性があるため、当然従業員からの信用も失い、不信感を持った従業員が辞めてしまったり転職をしてしまうかもしれません。

差し押さえまでの段階が進めば進むほど、社会保険料滞納の事実は大勢の知るところとなり、どんどん事業所の信用が失われていってしまうのです。

また、労働保険を滞納しているときに労災事故等が起きてしまった場合、保険の給付を受ける際は滞納している保険料とは別に、従業員に支払われるべき労災保険費用のうち最大で40%を事業所から徴収されます。

資金的な痛手であることもそうですが、これもまた事業所の信用を下げてしまうことにも繋がります。

なお、労災保険を適応させないため労災なのに健康保険を使って医療機関を受診するのは「労災かくし」と呼ばれ、労働安全衛生法違反に当たり、事業主も健康保険を使った従業員もペナルティを受けることになるので絶対にやってはいけません。

このように社会保険料の滞納は事業の不利益にしかならないので、慢性化や長期化はさせず、滞納してしまったら年金事務所や労働局等に小まめに相談をしに行きましょう。

経済的に納付が難しいなら分納や猶予を使おう!利用できる制度

社会保険料は滞納せずきちんと期日までに納付することが一番ですが、事業の都合上どうしても支払えない場合もあると思います。

その際は滞納している社会保険料に応じて、健康保険・介護保険・厚生年金保険であれば年金事務所、雇用保険・労災保険であれば労働局か労働基準監督署に早めに相談に行くことが重要です。

相談のときは支払いの意志はあること、その上で支払いが難しい理由を説明しましょう。

納付が困難であることを分かってもらうために、会社の資産、負債等をまとめた書類を持っていくと説明がしやすくなります。

その時の事情や経済状況によって、分納、または猶予を受けることが可能です。

一括での納付が難しい場合は分納をしよう

社会保険料の一括での支払いが難しい場合、分割払いにできないか相談してみましょう。

分納が認められた場合、事業の経営状況などを踏まえつつ、金額や支払日等は担当者と相談の上設定することが出来ます。

ただし、滞納分の保険料を分納する際は、通常の保険料と並行して支払わなければいけないので注意しましょう。

保険料の支払い期日は健康保険・介護保険・厚生年金保険は毎月、雇用保険・労災保険は年に1回やってきます。

分納で納めるときは、先々に納付しなければいけない保険料の支払いも難しい場合も多いので、滞納分のみではなく先の保険料のこともまとめて相談をしておけば安心でしょう。

しかし、分納でも納付が難しい場合、申請要件に当てはまれば「換価の猶予」または「納付の猶予」という猶予申請をすることも可能です。

一括で支払うことで生活等に支障が出る人は「換価の猶予」の申請を

「換価の猶予」は、以下の要件全てに当てはまっている方が申請することが出来ます。

  • 社会保険料等を一括で支払うと事業の継続、または生活が困難になるおそれがあること
  • 納付について誠実な意志を有すること
  • 換価の猶予を受けようとする社会保険料等以外に滞納がないこと
  • 換価の猶予を受けようとする社会保険料等の納付期限の6ヶ月以内に「換価の猶予申請書」が提出されていること
  • 納付を困難とする金額があること
  • 原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保があること

要件にある「納付について誠実な意志を有する」というのは、換価の猶予を受ける保険料等を優先的に納付する意志を示すことを言います。

例えば、督促状や電話を無視したり、調査や捜査に対して協力的ではなければ…、納付について誠実なようには見えませんよね?

そのため、督促状が届いたら早めに相談に行き、納付の意志はあることを示すことが重要になってくるのです。

また、換価の猶予には原則として担保が必要になりますが、猶予される金額や期間、経済状況によっては担保なしでも申請することが出来ます。

換価の猶予は、1年(事情によっては最長2年)の範囲内で猶予を受けることが出来、猶予が認められた保険料等は猶予期間中に分納で収める必要があります。

換価の猶予のメリットは、差し押さえが猶予される他、換価の猶予が認められた期間中の延滞金が一部免除されることです。

延滞金は本来の納付期間以降から最大で年14.6%の利率がかかるため、滞納分の納付が長期化してしまうと大変な負担になります。

少しでも負担を減らすため、本来の納付期間から6ヶ月以内であればとりあえず申請をしてみるのも一つの手でしょう。

災害、病気等の特殊な事情がある人は「納付の猶予」の申請を

「納付の猶予」は、以下の要件全てに当てはまっている方が申請することが出来ます。

  • 災害、本人含む家族の病気・怪我、事業の休業・廃止、著しい損失(例.全年の利益額の2分の1以上の赤字)等やむを得えない理由がある場合
  • 猶予の該当事実によって、一括での納付が出来ないと認められること
  • 「納付猶予申請書」が提出されていること
  • 原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保があること

なお、納付期限前に災害等によって損失を受けた場合、「被災者のための納付の猶予」が認められることがありますので、自分がどちらの猶予制度に当てはまるか年金事務所や労働局等に確認をしてみてください。

また、納付の猶予は修正申告等で過去に遡って社会保険料が発生したとき等にも受けることが出来ます。

納付の猶予も、担保は必要となっていますがこちらも猶予される金額や期間、経済状況によって担保なしで申請することが出来る場合があります。

1年(事情によっては最長2年)の範囲内で猶予を受けることが出来、猶予が認められた保険料等は猶予期間中に分納で収める必要があります。

納付の猶予が受けられると、新たな差し押さえをとめることができる他、延滞金の一部、もしくは全額が免除さます。

延滞金が全額免除されるのは大変魅力的ですが、ひとつ注意していただきたいのが、納付の猶予は猶予を受けようとする期間より前に申請をする必要があります。

そのため、猶予を受けるには要件に該当する事象発生後すみやかに猶予の申請をしましょう。

社会保険滞納による信用失墜を避けるには、早めの行動を!

では、社会保険料滞納による差し押さえを避けるためのポイントをおさらいしたいと思います。

  • 社会保険料の滞納後、「督促状・電話・訪問による督促」、「財務調査」、「強制捜査」、「財産の差し押さえ」という順で滞納処分が行なわれます
  • 滞納処分の段階が進むごとに滞納の事実が、取引先や融資元の金融機関に知られてしまいます!信用を失う前に、滞納したら早めに相談に行きましょう
  • 滞納しても、年金事務所や労働局・労働基準監督署に相談に行けば分納にすることも可能です
  • 分納でも支払いが難しい時は早めに「換価の猶予」、または「納付の猶予」を申請しましょう!

滞納処分が進んでしまうと滞納の事実が周囲に知られてしまい、企業のイメージダウンのみならず、取引先からの取引停止や金融機関からの融資中止等さらなる痛手を負うことになります。

また、保険料の納付が厳しい方向けの「納付の猶予」や「換価の猶予」といった制度は、一定の申請期間を過ぎてしまうと申請が出来ません。

納付が難しいと思ったら、早めに健康保険・介護保険・厚生年金保険は年金事務所、雇用保険・労災保険は労働局か労働基準監督署に相談へ行き、分納や猶予等の対策をとるようにしましょう。

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